王がおかしくなったのは何時からだっただろうか? あの忌わしい事件の後から王は少しずつ様子が変わっていった事はアイラも気がついていた。 だが近衛団長にすぎないアイラが王に意見するなどということは許される事ではなかった、 アイラはただ王の盾であり続ける事、それが与えられた任務であり存在する全てであった。 ある日アイラは王に呼ばれ、促されるままに城の外を見ると言葉を失った。 この世のものとは思えない兵器、いや兵器という言い方が正しいかは分からない、 そう思わざるを得ない程にそれは巨大で異形であった。 唖然とした表情で外の兵器を凝視するアイラに王はゆっくりと語りかける。 「アイラ・ジェナ・パルシオン、汝の我に対しての忠誠は本物か?」 アイラは背筋を伸ばすと躊躇いなく言葉を発した。 「近衛騎士団団長になる時の誓い、いえ、近衛隊に入隊した時から我が体は王を守る為にあり、 我が魂は王と共にあります!」 忠実な部下の返答に満足すると王は言葉を続ける。 「ではその言葉、本物かどうか試させてもらってもよいかな? 汝が見た兵器、あれをお前にやろう。操ることが出来なければ魂を喰われてしまうがな。 まぁそうなっても王の為に死ねるのだ、本望であろう?」 一瞬アイラは言葉に詰まった。 王の言葉が嘘ではないことは城の外にいるものの姿を見ればわかる…。 あれは人外の物だ、金属に覆われた姿であってもその禍々しい気配は消せるものではなかった。 だが何故王の言葉を拒否することが出来よう…… 「かしこまりましたグラハム様。我が忠誠心は如何なることがあろうとも揺らぐ事はありません!」 その言葉を聞くと、王はゆっくりと右手をアイラの方に向けた。 視界が歪む…、歪んだのは世界なのか自分なのか。奇妙な感覚に襲われた後、アイラは兵器の中にいた。 ……気分が悪い……吐き気がする……おぞましくて体中から汗が出る。 視界はいまだ歪み続け、体中の血液が沸騰して汚水が流れ込んでくるような感覚。 一体どの位の時間が過ぎたのか?1時間だったような気もするし1分程度だったのかもしれない、 少しずつ体が慣れてきたのか意識や視界も戻り自分が兵器の中にいることを再認識する。 試しに体を動かす事をイメージすると兵器はそれに応えるように翼を動かした。 「ほう、適合したか? さすがだな、他の騎士達とは格が違うか。」 王は誰に聞かすわけでもなく一人呟くと口元を歪ませ再び言葉を紡ぐ。 「では我の為に存分に忠誠心を示してもらおうか。 切り裂くも、つぶすも…、好きなように楽しむがいい。」 そう言うと王は外に佇む巨大な翼に背を向け、城の奥に続く闇へと消えていった……。