王都は闇に満ちていた、何故このような事になってしまったのか? 徴兵という名のもと男も女も老人も子供も王城に連れて行かれた。連れていかれた人々は決して 戻ってくる事はなかった為、次は自分が連れて行かれるのではないかと人々は恐怖に震えていた。 連れて行かれる者に例外はなかった、ミリア・マリヴィーンは早かったのか遅かったのかは不明だが 彼女もまた王城の中の薄暗い広場に連れて行かれた。 そこでの光景は理解不能だった、人々が順番に何かの中心に進まされると人が人で無くなっていた。 消えるとか溶けるとかそういったものとは何かが違った、もっとおぞましい事であることは 錬金術の知識のないミリアにもわかった。 連れてこられた人々は二つに分けられていた、錬金術師らしき者が何かの確認と選別を行って 10人いや20人に1人くらいが別の列に入れられていた。 そちらの列もおぞましい事に変わりはなかったが人の形を留めていただけましだった。 ミリアは全力でそちらの列に選ばれる事を祈った、定期的に礼拝には行っていたが これほど強く祈ったのは初めてだった。 ミリアは全身が震えている音が耳に聞こえる程怯えながら錬金術師の選別を受けた。 ………………ミリアは多くの者達と同じ列に回された。 気を失いそうになりながら、いやいっそ失ってしまった方が幸せだっただろう。 必死に抵抗を試みたが屈強な男でも数人がかりで引きずられていくのだ、抵抗するだけ無駄だった。 中心に入れられると、他の人々と同じようにミリアの体は…… 体は…………何も変化が起こらなかった。 これに驚いたのはミリアではなく選別を行っていた錬金術師達だった。 錬金術師達は慌てて何か相談を行ったかと思うと、どこかに走って報告に向かっていった。 ミリアは自分がまだ生きている事だけは理解ができ……、理解した瞬間に気を失った。 ・ ・ ・ ……気分が悪い……吐き気がする……おぞましくて体中から汗が出る。 視界はいまだ歪み続け、体中の血液が沸騰して汚水が流れ込んでくるような感覚。 あまりの不快感に目が覚めた。 自分がどこにいるのか分からなかった、何かの中にいることは感じたがここがどこなのか、 それとも既に自分は死んでいてここがリディア様がいると言う天界なのか? だがこんな不快感に満ち溢れている場所が天界だと言うのならば誰も行きたいなどとは思わないだろう。 どこからか声が聞こえる……声の聞こえた方を向くと離れた城の中にグラハム王が立っていた。 「報告を聞いた時は半信半疑だったが、本当に適合するとはな。 ふむ、まだ全てを解き明かせてはいないと言うことか……魂の強さとは難しいものだな。」 独り言なのか、誰かに話しかけているのか分からない口調で王は一人呟いていた。 「さて、ミリアとか言う名らしいな。せっかく適合したのだ、我の為にその力使ってはもらえんかな?」 王が何を言っているのかミリアには理解する事が出来なかった。 「あ…、あの、グラハム様、恐れながら私にはグラハム様の言われている事の意味が分かりかねます、 私のような平民にはグラハム様のお役に立てる事はないかと思いますが。」 失礼にならぬよう必死に言葉を選び伝えると、王は少しだけ口元を歪めながら優しく語りかけた。 「なに簡単な事だ、お前に近づいてくる人間を潰し、溶かし、腐敗させればいい。 料理をするより簡単だと思うが?」 ミリアは何故王が自分にそのような事を言うのか分からなかったが人殺しをさせようとしていることは 理解ができた。 「……わ、わたしには……そのような事は…、で…、できません…、お許しくださいグラハム様。」 目を反らしながら必死に……、ミリアは必死に訴えた。 「ふむ…、できぬか? それは残念だな、では先ほどの列にもう一度並ぶかね?」 ミリアの中で気を失う前の光景が鮮明に思い出され……途端に足も手も全身が震えだした。 「お…、お許しを……あの場所は…、あの場所に行くのだけはお許しを……」 怯えるミリアの声を聞くと王は一層口元を歪め、楽しそうに言葉を続けた。 「ああ、そうか、あそこは気に入らなかったか? せっかくお前の弟も並ばせているのに自分だけは嫌だとは弟想いではないのだな? それとも父親や母親もいてくれないと寂しいか?」 言葉が出なかった……王は脅しているのだ、断れば弟も父も母もあの場所に連れて行くと。 震える声で…………、(これほどリディア様を恨んだ事はなかった) 視界が溶ける程の涙を流しながら…………、(神鳥カラドリウスに救いを求めたことはなかった) (……でも奇跡など何も起きなかった。) 「……お…、おお、せの……、まま……、に…、グラ……、ハ、ム……、様」 その返事を聞くと王は満足そうに新たな部下に任務を与えた。 「では、その兵器を使い思う存分殺すがいい、好きなだけ貴様の絶望をぶつけるがいい。 楽しみにしているぞ、ミリア・マリヴィーン。」 月も星もない闇の中、王の言葉だけが響いた……。