常に薄暗いこの部屋にニーナとノアが連れてこられたのは何日前だっただろうか? 鉄格子のはまった部屋、部屋というよりは牢獄といった方が早いかもしれない、 それが実験室の回りを囲むように八部屋程用意されており各部屋には全て双子が入れられていた。 ニーナ達が来る前から全ての部屋は埋まっており、空いた部屋が出来た場合は直ぐに補充されていた。 ここの主であるエレノアは禁呪とそれから造られる兵器についての研究を続けていた。 その中には斥候から連絡のあった王都に向かっているという兵器を模した機体や、 一人では制御不能なほど巨大な力を持つ兵器などもあった。 今エレノアが特に力を入れているのは魂の力についてだった、兵器に適合出来るのは元となる人間の魂が 関係している所までは分かっていたが気が弱く脆い人間が適合する例などもあり研究は進んでいなかった。 そこで目を付けたのが双子だった、同じ魂を共有する者を使う事で効率良く研究成果を見いだそうとしていた、 だが研究といえば聞こえがいいが中身は人体実験と変わらず様々な薬品や術式を用いてあらゆる事を試していた。 あるものは消滅し、ある者は人の形をしなくなっていた。 そのような地獄絵図の中ニーナとノアは自らの順番がきた際に一計を案じエレノアを出し抜く事に成功したが、 結果としてノアだけが脱出し二人は離れる事となり、残されたニーナはエレノアの怒りの全てを受ける事となった。 脱出を計った際にニーナが適合出来る可能性があると分かると実験的に作成した一人では制御不能な禁呪兵器に ニーナを入れ研究と復讐の両方を同時に叶えながら反応を楽しんだ。 憎・恨・悲・苦・怒・痛………、ありとあらゆる負の感情が襲いかかりニーナは兵器の中でもがいた、 視界が歪み、体中の血液が汚水に変わるような感覚。意識があるのか無くなったのか自分でも分からなくなり ただ苦しいと言う感情が頭に残った。 その苦しみに合わせて兵器は暴れ狂い、周りを破壊しながら悶え苦しむ動きを繰り返していたが一晩程経つと 動きは徐々に弱くなり…やがて静かに倒れ、動かなくなった。 それをエレノアは満足そうな表情を浮かべながら見届けると再び実験に戻っていった…。 それから数日後、王都に向かってくる愚かな者達に力を誇示する為エレノアは自ら禁呪兵器を操り王都を留守にした。 夜になり王都は雷雨となった、動かなくなったまま放置された兵器に雨が降り注ぐ…… 真夜中の誰も居ない中、嵐のような雨が容赦なく大地を打ち続けているとその中に僅かに動く巨大な影があった。 兵器の中でニーナはまだ辛うじて姿を保ち生きていた、呼吸は弱く体を動かすことも出来ないがそれでもまだ生きていた。 「ノ、ア……どこ、に…いるの…。」 意識が戻るとニーナはノアに思いを馳せる。 「痛い…苦しいよ…ノア。助けて……ノア……側にいて。」 うわごとのようにノアの名を呼び続ける。 「…会わないと…ノアの側に行かないと。」 起き上がろうと体を動かすと嵐の中に四つの蹄の音が響いた。 「ふふ、高い、広いよ……ノア。ふふふ、ハハハ、凄いよ。」 虚ろだった目に狂気という名の生気が宿る。 「なんだろう、凄くいい気持ち。」 ニーナが身じろぎをすると回りの木々が枯れてゆき兵器に力が宿っていく。 「早く助けに来て、いつも一緒だったノア。一人だとつまらないよ…すごく寂しいよ…。」 雨と風の音しかしない真夜中、ニーナの声に答える者は誰もいなかった。 「来てくれないならニーナから会いに行くね。」 そう呟くと大地を揺るがすような嘶きと共にニーナは闇へ駆けていった。