隣国へ赴く文官の護衛任務の為、部下数名と国外へ出向いていたが、 3ヶ月程かかった任務の帰り道に国境付近の村に立ち寄ると出立時と比べ あまりにも変わり果てた村の姿に全員が困惑の表情を浮かべた。 変わったと言うのは正確ではない、村の形は何も変わってはいなかった、 ……誰もいない事を除けば。 「人がいないのか?」 部下と手分けをして家々を捜索すると村はずれの家の中に年の頃は60歳前後 と思わしき女性が隠れるようにうずくまっているのを発見した。 「大丈夫ですか?……村の他の人はどこに行ったのですか?」 話しかけてもうずくまったまま目を合わせようとしない。 「安心してください、私達は守護騎士団の者です。」 その言葉を聞いた瞬間、女性はまるで化け物を見たかのように目を見開き一層おびえ始めた。 「許してください、私は見ての通りの年老いた人間です、どうか、どうか、見逃してください。 主人も息子も帰ってきません……、あぁ、お願いします、息子は元気でしょうか? 主人はいつ戻ってくるのですか? そうだ裏の小屋には牛がいます、 少々年は取っていますがまだミルクも絞れて元気なものです。 あ、あ…、服がみすぼらしい、村祭りの時の服はどこにいったのかしら?」 突然多弁になった女性は支離滅裂な言葉を並べ立てこちらの言葉にはまったく耳を 貸さなくなってしまっていた。 アレックスが困惑していると家の外から部下の声がする。 「なんだ、あれは?…団ちょ……」 言い終わる前に部下は胸を打ち抜かれて絶命していた。 咄嗟に家から飛び出すと、同時にそれまでいた建物は跡形もなく消し飛んだ。 突風に飛ばされ巻き上がった煙の中、目を開くと眼前には見たこともない物体が浮いていた、 それが自分を殺そうとしている兵器だと理解する前に飛び退いた。 物陰に隠れ周りを伺うと先ほどまで共に談笑していた文官と部下達は全員動かなくなっていた。 上空を見ると先ほどと同じような兵器が数体獲物を探すように旋回をしている、 アレックスは……逃げた…、全力で逃げた…… 生物か物体か分からないそれはあざ笑うように上空からアレックスを攻撃してくる、 1度、2度、3度と避ける事が出来たのは天性の直感によるものだろう。 見晴らしのいい場所では逃げ切れないと感じ村を抜けた先の森に逃げ込む、 それでも追跡を諦めない兵器達から逃れる為、走って走って走り続けた、 数時間はたっただろうか?気がつけば追跡はなくなっていた……。 おぼつかない足取りになりながらも歩き続け、おぼろげに状況が理解できた、 自分達がいない間に国でなにかがあったのだろう、 「誰もいなくなった村」「守護騎士団と聞いて取り乱した老女」「得たいの知れない兵器」 あれが自分達の味方ではないことだけは十二分に理解できた。 おそらく国に向かおうとすればあのような兵器が何体もいるのだろう、 進めば確実に殺される……だが王国を守らずして何が守護騎士団か!? だが力ないものに理念や理想を語る資格はない、力が必要だ、 あんな化け物に対抗できるだけの力が!! 夜の闇が深くなる頃、森を抜けると小さな湖にたどり着いた。 わずかでも身を隠そうと湖の先に見える滝の裏に近づくと小さな洞窟があるのに気がついた、 光など差すはずもない洞窟の奥が僅かに明るくなっているのが見える。 導かれるように……、囁かれるように……、奥へ進むとまばゆい光の中にソレはあった。 かつてこの地に安置され、禁呪が使われる日まで封印されていた「ソード・イフリータ」 アレックスが翼に触れると一層まばゆい光に包まれ……目を開くと彼女の姿は機体の中にあった。 初めて聞く老人の声が頭の中に流れ込んでくる…、「禁呪の存在」「ソード・イフリータの存在」 言葉が消えるとアレックスは静かに目を閉じた。 ……どの位の時間が立っただろうか? 再び目を開くとその瞳には迷いは消えていた。 守護騎士団団長として! 国の皆の無事の為! 国王に真実を問いただすため! 朝日を浴びた銀の翼は気高いまでの光を反射して王都へ飛び立っていった。